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山口地方裁判所下関支部 昭和41年(ワ)83号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕三、被告主張の抗弁二表見代理の主張について。

被告会社の社員久保木悟、同山中博が昭和四〇年五月一二日午後五時頃取引委託勧誘のため原告宅を訪れ、客間において原告と商談したこと、その間被告社員が同席した金沢泰子を「奥さま」と呼んだにもかかわらず、原告がこれを黙認したこと、その席上原告から東洋工業株式会社株式二、〇〇〇株の指値売却の依頼があり、翌一三日右株式の売却が成立し、被告がその旨通知したところ、翌一四日原告が被告会社に同株券一万五〇〇株を持参したこと、被告はそのうち二、〇〇〇株は売却のため、残り八、五〇〇株は保護預りとして預かり、引換えにそれぞれにつき有価証券預り証を原告に交付したこと、原告の要望で翌一五日被告会社社員が右売却代金二三万七、八三七円を原告宅へ持参したことは、当事者間に争いがない。

ところで、<証拠>を総合すると、被告会会の社員山中博は、昭和四〇年五月一五日原告の依頼により株式売却代金二三万七、八三七円を原告宅へ持参し、応待に出た金沢泰子に、有価証券預り証の証券受領欄(乙第一号証の一)および代金の領収書(乙第二号証の一)に「藤井紀雄」なる署名の代理及び「藤井」なる押印をさせた上、これと引換に右代金を同女に交付し、右代金は原告の手中には入つた事実を認めることができるのである(原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は容易に信用し難い)。

以上の事実によれば、原告は右有価証券預り証と自己の印鑑を右金沢に預けて、右代金の受領を委託していたものと推認するに難くないのであるが、被告主張の如く、原告が被告に対し右金沢泰子に対し何等かの代理権を与えた旨を表示した事実を認めるに足る証拠は何等存在しない。

四、裁告主張の抗弁三本件株券の売却が債権の準占有者に対する弁済として有効である旨の主張について。

(一) <証拠>によれば、被告会社の社員であつた同証人らは金沢泰子を原告方における同女の言動等からして、過失なく、原告の妻と信じ、一方原告も同証人らのかかる評価を敢えて否定していなかつたものと認めるに難くなく、なお又、当時二、三年前妻を失つた原告と、金沢泰子との関係は主人とその家政婦との間の一般的な関係以上のものがあつたものと推認するに難くない。

(二) 又昭和四〇年五月一五日に支払われた最初の東洋工業株式二、〇〇〇株の売却代金二三万七、八三七円が、原告の委託を受けていた金沢泰子を通じて原告の手中には入つたことは前記認定のとおりである。

(三) その後引続き金沢泰子の依頼に基づき、被告が前後七回に亘り東洋工業株式七、五〇〇株の売却(株券の返還及びその代金の支払)をした事実は当事者間に争いがなく<証拠>によれば、その際被告は、金沢泰子から別紙取引一覧表記載のとおり、その都度受領欄に原告名の記名押印をした有価証券預り証<証拠略>の提出を受け、原告名の記名押印ある売買代金の領収書<証拠略>を徴したのであるが、なお最終回の取引に関しては、金沢において有価証券預り証を紛失したとの事であつたので、その提出を受けることができなかつたので、同女から昭和四一年二月八日東洋工業株式二、〇〇〇株の受領を証する旨の原告の記押印ある念書<証拠略>の提出を受けた事実を認めるに難くない。

(四)<略>

(五)<証拠>によれば、被告会社係員は、前記有価証券預り証を持参したのは、原告本人ではなかつたけれども、前記認定の如く原告の妻と信じていた面職の間柄である金沢泰子であり、右預り証の受領欄に、最初の時と同様、原告名義の記名押印を受けたので、金沢には本件東洋工業株券七、五〇〇株の返還を受ける代理権限があるものと信じ、同女の依頼に基づき右株式の売却及びその代金の支払をしたのであつて、なお最終回には、金沢は有価証券預り証は紛失を理由に持参しなかつたけれども、その前六回に亘る取引経過からして前同様その代理権限があるものと信じていた事実を認めるに難くない。

(六)<略>

(七) なお附言するに、<証拠>によれば、原告が金沢泰子の本件各非行を察知したのは、昭和四〇年一一月頃であつたが、原告は家庭内部の不名誉な問題でもあるので、これを直ちに被告会社に連絡して善処することを躊躇し、翌昭和四二年二月上旬頃に至つて漸く被告会社に連絡し、金沢泰子が妻でなく家政婦に過ぎないことを告げた事実を認めるに難くない。

ところで、有価証券預り証の受領欄に記名押印して株券の返還を請求する者は、一般取引の観念上、債権の準占有者に該当する場合が多いと言い得るし、又右のような債権の準占有者たる状態が数回継続中、たまたま有価証券預り証を紛失したとの理由でこれを持参できない場合でも、その者が諸般の事情から債権者の代理人であると見られるような外観を具えておれば、やはり債権の準占有者に該当すると認めてさし支えないと解すべきである。

これを本件についてみるのに、前記認定の事実によれば、金沢泰子は原告が最初の東洋工業株式二、〇〇〇株の売却に使用した時の印<証拠略>と同一の印を受領欄に押捺した有価証券預り証を呈示し、或は又そのような状態が数回継続した後、たまたま有価証券預り証を紛失したとの理由でこれを持参できない場合もあつたけれども、継続した原告の代理人を装い本件株券七、五〇〇株の返還を請求したのであるから、債権者の代理人であると見られるような外観を具えていたということができるし、被告会社が金沢を代理人と信じ、善意であつたことも前記認定により明らかであり、又前記認定の諸事情に照らせば、金沢に対する弁済について被告会社係員に過失はなかつたものと解するのが相当である。

従つて、被告の金沢に対する本件株券七、五〇〇株の返還は債権の準占有者に対する弁済として有効であるというべきである。(雑賀飛竜 田尻惟敏 堺和之)

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